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大阪地方裁判所 平成10年(行ウ)21号 判決 2000年2月29日

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が原告らに対して平成八年五月一〇日にした各贈与税決定処分(以下「本件各決定処分」という。)及び各無申告加算税賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」といい、本件各決定処分と併せて「本件各処分」という。)をいずれも取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  aは、平成五年三月三〇日、その所有に係るフォーエスキャピタル株式会社(以下「訴外会社」という。)の株式(以下「本件株式」という。)三〇〇〇株を原告bに、本件株式一万株を原告cに、本件株式一万一〇九三株を原告dに、それぞれ贈与した(以下、この贈与を「本件贈与」という。)。

2  原告らは、本件贈与に係る贈与税につき、いずれも基礎控除額に満たないとして、贈与税の申告をしなかった。

しかし、被告は、平成八年五月一〇日、原告らに対し、別表1(2)のとおりの本件各処分をした。

3  原告らは、本件各処分を不服として、平成八年七月八日、被告に異議申立てをしたが、これが同年九月二七日付けで棄却されたので、同年一〇月二四日、国税不服審判所長に審査請求をした。同所長は、平成一〇年一月二九日付けで右審査請求を棄却し、そのころ原告らにその旨通知した。

4  本件各処分は次の理由により違法である。

(一) 本件株式は、株式会社である訴外会社が発行する株式であるが、取引相場がなく、財産評価基本通達(乙一、昭和三九年四月二五日付け直資五六、直審(資)一七(平成五年六月二三日付け課評二―七・課資二―一五六による改正前のもの。以下「本件通達」という。)一八八及び一八八―二に基づき、配当還元方式によって評価される株式に該当する。

配当還元方式によると、本件株式は一株三八円と評価される。

ところが、被告は、本件株式の価額を、預け金その他の単なる金銭債権と同様、aの取得価額と同額であると評価して本件各処分を行った。

このように、本件各処分は、本件通達に反し、租税法律主義を定めた憲法三〇条、適正手続を保障した同法一三条及び三一条、法の下の平等を定めた同法一四条に違反する。

(二) また、累進課税制度を採用している現行の相続税法は、財産権の保障を定めた憲法二九条及び法の下の平等を定めた同法一四条に違反する。累進課税税率による税額を前提とする本件各処分も違憲、違法である。

5  本件贈与の当事者である原告らは、将来における相続税の節税効果を期待し、本件贈与に十分な節税効果があるとする税理士その他の専門家の説明を信じて本件贈与を合意した。

したがって、仮に、本件株式の価額をaの取得価額と同額であると評価して本件贈与に贈与税が課されるべきものであるとすれば、本件贈与の動機に錯誤があり、その動機は表示されていたから、本件贈与は、いずれも無効である。

そうすると、本件各処分は無効の贈与に対してされたもので違法である。

6  よって、原告らは、被告に対し、本件各処分の取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1ないし3の事実は認める。

2  同4は争う。

3  同5は争う。原告主張の動機の錯誤について、仮に、それが原因で本件贈与が無効であるとしても、原告らは、その無効を法定申告期間経過後は、法律上主張できない。原告らは、本件贈与により取得した本件株式をaに返還していないばかりか、その大部分を株式会社セムヤーゼに売却して収益を上げており、本件贈与による経済的成果は失われていない。

三  被告の主張

1  本件贈与があった場合の贈与税の基礎控除の額は、別表2の贈与税の計算の表の②のとおり、原告らいずれも六〇万円である。

2  本件株式の価格は、本件通達一七八ただし書、一八八―二によるべきではなく、本件株式の性格、訴外会社の本件株式発行の趣旨、a及び原告らの本件株式の取得から売却に至る一連の行為等を総合的に考慮して、特別な事情があるものとして、本件贈与日の直近の時価純資産価額であるとみるべきである。

(一) aは、平成四年六月九日に大和ファイナンス株式会社から五億円の融資を受け、そのうち四億二〇〇〇万円を、同月一一日に設立した有限会社ワイ・ティー興産の資本金及び資本準備金の払込みに当て、翌七月二八日には取得したワイ・ティー興産の出資八四口全部を訴外会社(当時の商号はスリーエスキャピタル株式会社)に現物出資して、一株当たり一万六九七七円で本件株式二万三六〇一株の発行を受けた。

(二) そして、aは、同年六月二四日にセムヤーゼから代金八三九万八四四〇円(一株当たり一万七〇七〇円)で取得していた本件株式四九二株と右現物出資による本件株式の合計二万四〇九三株全部を、平成五年三月三〇日、原告らにそれぞれ、三〇〇〇株、一万株、一万一〇九三株贈与した(本件贈与)。

(三) 原告らは、平成六年一〇月一四日、本件株式のうち現物出資により発行を受けたのと同数の二万三六〇一株をセムヤーゼに四億三一三五万五四七七円(一株当たり一万八二七七円)で売却した。

(四) その後、原告らは、平成六年七月二八日から平成七年四月二五日にかけて、aに対し、合計五億六二六三万〇〇二五円を貸し付け、aは、同月二八日、大和ファイナンスからの借入金全額を一括して返済した。

(五) このように、一連の取引の結果、aには原告らからの借入金(元本)合計五億六二六三万〇〇二五円が残ることとなり、原告らは、何ら対価を支払うことなく、aに対する右貸付金を有することとなった。

(六) aは平成八年四月一日に死亡し、その相続人である原告らは、遺産総額四億円余りに対し、控除される債務が原告らからの右借入金元本全額及び未払利息の合計五億八七〇六万三二六五円を含む六億円余りであるとして、相続税の課税価格及び納付すべき税額を〇円として相続税の申告をした。

(七) 本件株式に関するスキーム(以下「キャピタル方式」という。)は、税理士であるeが考案したもので、eは、訴外会社の代表取締役、セムヤーゼの筆頭株主であり、これらの会社を含む日本スリーエスグループの中心的存在であった。キャピタル方式は、① 訴外会社がセムヤーゼに劣後株式を発行することにより、出資者の有する株式を常に本件通達一八八、一八八―二により配当還元方式で評価されるように株式数が調整されていたこと、② これにより相続税及び贈与税の節税対策になるメリットがある旨出資者に説明されていたこと、③ パンフレットにより、本件株式の評価額が低くなること、及び出資者が本件株式の売却を希望した場合には日本スリーエスグループの関連会社で買い取り、これができない場合には訴外会社の減資をしてでも必ず買取りに応じることが宣伝されていたこと、④ 本件株式の売却には、取得のときと同様に、時価純資産価額をもって応じることが出資者に説明されていたことから、出資者の所有する本件株式が常に配当還元方式により低く評価される状態を作り出すことにより、出資者の相続税及び贈与税の負担を軽減し、その後に、必ず、本件株式の取得に当てられた金員を出資者が回収できる仕組みであった。

(八) 訴外会社は、事業活動に必要な資金を調達する目的で新株を発行したものではなく、また、同社自体が、その事業活動のために、その新株の発行により調達した金員を使用することができない状態にあった。

(九) 訴外会社の取締役である税理士のfは、株式会社財産活用クリニックを設立し、その代表取締役を務めていたが、同社は、aから節税対策の相談を受け、キャピタル方式を具体化した「<a家>キャピタルプラン実行計画書―実行予定案―」を作成し、右の一連の取引はこれに基づいて行われた。

(一〇) 訴外会社が出資者に対して増資により本件株式の割当てを行う際の引受価額及び出資者がセムヤーゼから本件株式を購入する際の一株当たりの購入価額並びに出資者が本件株式を売却する際における一株当たりの価額は、いずれも、直近の一株当たりの時価純資産価額とされており、訴外会社は右のように出資者に説明していただけでなく、時価純資産価額を毎月出資者に報告していた。訴外会社も出資者も、本件株式の時価純資産価額をその取引価額と認識していた。

(一一) このような本件贈与前後のa及び原告らの一連の行動は、租税回避を目的として計画的に行われたもので、その他に何ら経済的合理性がなく、かような場合に、本件通達を形式的かつ画一的に適用して本件株式を配当還元方式で評価しても、それは、相続税法二二条にいう時価を反映するものではなく、本件通達の趣旨に反し、原告らと同様の方法を採らなかった他の善良な納税者との間の租税負担の公平を著しく害する。したがって、本件株式の評価については、本件通達によるべきでない特別な事情が存在し、本件株式の評価は、本件贈与日である平成五年三月三〇日の直近の一株当たりの時価純資産価額とすべきである。

3  本件株式の平成五年三月三〇日の直近の一株当たりの時価純資産価額は一万七〇五二円であり、これによると、本件贈与に係る原告らの贈与税の課税価格及び贈与税額は、別表2①の原告らそれぞれの「価額」欄記載のとおりとなり、本件各決定処分は、その範囲内であるから、適法である。

また、本件各決定処分を前提とする無申告加算税の額は別表1(2)の各無申告加算税欄記載のとおりとなり、本件各賦課決定処分も適法である。

四  被告の主張に対する認否、反論

1  被告の主張1は認める。

2  同2は争う。訴外会社は、いわゆるベンチャー企業の持つ優良な技術等そのものを引当てとして積極的に融資してその株式等を取得し、その企業が上場することによるキャピタルゲインを得ることを目的とする活動をしていた。原告らは、そのような説明に納得し、ベンチャー企業育成という社会的意義を基礎として、キャピタルゲインを得るという投資とともに節税効果のある方法として、本件株式を取得した。

出資者が本件株式の売却を希望した場合には訴外会社の減資をしても必ず買取りに応じることは否認する。現に原告らの売却希望に応じていない。本件株式の売却には、時価純資産価額をもって応じることが確実であるとの説明もなく、変動による危険があり得るとの説明があった。また、必ず本件株式の取得に当てられた金員を出資者が回収できる仕組みであったことも否認する。回収が困難になることもあり得るとのリスクの存在は説明されていたし、現に原告らは回収ができていない。

訴外会社が事業活動に必要な資金を調達する目的で新株を発行したものであって、現に投資対象企業への投資もされていた。経済行為として明らかに不合理であるとの被告の主張は否認する。

原告らとセムヤーゼとの間の株式売買は、従来からの縁故に基づいてされたものであって、一般的な市場性を反映したものではない。この売買価格は解散価格(すなわちPBR)を基礎としたものであって、相続税ないし贈与税の株式評価の視点から比較しても、約四〇パーセント増しの高額な価格であるから、この売買価格をもって時価とみなすことはできない。

理由

一  請求原因1ないし3、被告の主張1の事実は当事者間に争いがない。

二  贈与により取得した財産の価額は、特別の定めのあるものを除き、当該財産の取得の時における時価により評価されるところ(相続税法二二条)、原告らは本件株式の時価を、本件通達の定める配当還元方式によって評価すべきであると主張する。そして、本件通達において、時価とは、相続により財産を取得した日等の課税時期において、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額をいい、その価額は、本件通達の定めによって評価した価額による(本件通達一(二))とされているが、本件通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する(本件通達六)とされている。

本件通達においては、株式の価額は、銘柄の異なるごとに一株単位で評価することとされ(本件通達一六八)、取引相場のない株式(上場株式及び気配相場等のある株式以外の株式をいう。以下同じ。)の価額は、原則として、評価しようとする株式の発行会社(以下「評価会社」という。)を事業規模に応じて大会社、中会社、小会社に区分し(本件通達一七八)、それぞれの区分に応じて、評価するものとされている(本件通達一七九)が、課税時期における評価会社の株主のうち、株主の一人及びその法人税施行令四条に規定される同族関係者の有する株式の合計数がその会社の発行済株式数の三〇パーセント(その評価会社の株主のうち、株主の一人及びその同族関係者の有する株式の合計数が最も多いグループの有する株式の合計数が、その会社の発行済株式数の五〇パーセント以上である会社にあっては、五〇パーセント)以上である株主以外の株主等が取得した株式については、配当還元方式(株価構成要素のうち配当金だけに着目して、配当金を収益還元することによりその元本である株式の価額を算出する方法)により評価するとされている(本件通達一八八、一八八―二)。

三  ところで、相続税法二二条所定の「時価」とは、当該財産の客観的交換価値、すなわち、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間において自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価格をいうと解するのが相当である。もっとも、すべての財産の客観的な交換価値が必ずしも一義的に確定されるものではなく、財産の客観的な交換価値を個別に評価していたのでは、その評価方式、基礎資料の選択の仕方等により異なった評価が生じることとなるし、また、課税事務の迅速な処理も困難となるおそれがあることから、納税者間の公平、納税者の便宜、徴税費用の節減という見地からは、合理性を有する評価方法により画一的に当該財産を評価するのが相当である。本件通達は、そのような趣旨から定められているものであり、行政庁内部の準則にすぎないとはいえ、納税者間の公平及び信頼保護の見地から、それに定められた方法により得る場合には、できる限り、その方法によって財産評価をしなければならないのが大原則である。

しかしながら、本件通達に定められた評価方式を画一的に適用すると、かえって、実質的な租税負担の公平を害し、本件通達を定めた趣旨に反することが明らかであるなど特別の事情が存する場合には、本件通達の定めとは異なる評価方式によることが許される場合があると解すべきであり、本件通達六が、その定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の評価について例外を定めているのも、正にその趣旨に基づくものである。

ところで、本件株式のように一般の取引相場のない株式については、自由な取引を前提とする客観的価格を把握することが困難であるから、当該株式が化体する純資産価額、同種の株式の価額あるいは当該株式を保有することによって得られる経済的利益等の価額形成要素を勘案して、当該株式を処分した場合に実現されることが確実であると見込まれる価額、すなわち、仮に自由な取引市場があった場合に実現されるであろう価額を合理的方法により算出し、これを当該株式の時価と評価すべきものである。

例えば、零細な株主に代表される「同族株主以外の株主等が取得した株式」については、株主の持株割合が低下すると会社に対する支配権が希薄になり、会社経営等について同族株主の意向はほとんど反映されないこと、会社の経営内容、業績等の状況が同族株主以外の株主の有する株式の価額に反映されないことからして、これらの株主が当該株式の所有により把握する権利の主たる内容は配当金を受けることとならざるを得ない。本件通達一八八、一八八―二が、同族株主以外の株主の有する取引相場のない株式の評価について配当還元方式を採用しているのは、右のように、少数株主が当該株式を所有する経済的実益が、通常の場合は、主として配当金の取得にあることを理由とするものであると解される。

以下、右の理解を前提に、本件において本件通達の定める配当還元方式を適用するのが相当でない特別の事情が存するか否かを検討する。

四  前記一の争いのない事実に証拠(甲二、三、五、乙一ないし六五(枝番を含む。)及び証人fの証言)並びに弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実を認めることができる。

1  原告bはaの実子である。原告cは原告bの妻であり、aの養子である。原告dは原告bの実子であり、aの養子である。

2  eは税理士であるが、平成三年八月二六日に株式会社大原工務店を買収し、代表取締役に就任した。右会社が訴外会社であり、買収と同時にスリーエスキャピタル株式会社、平成四年一〇月一日にフォーエスキャピタル株式会社、平成九年一一月四日に明星キャピタル株式会社に、それぞれ商号変更された。

そして、訴外会社の定款記載の目的は、右買収と同時に、① 株式、債券等の有価証券並びに出資金に対する投資業務、② 投資事業組合の財産運用及び管理に関する業務、③ 企業経営に関するコンサルティング業務、④ 不動産及び商品ファンド等有価証券以外の資産に対する投資業務、⑤ 融資及びその斡旋、⑥ その他これらに附帯する一切の業務と変更され、平成四年六月二六日には、企業の経営譲渡、合併、資本並びに業務の提携に関する斡旋並びに仲介が追加された。

3  税理士のfは、訴外会社がフォーエスキャピタル株式会社に商号変更された平成四年一〇月一日に、同社の取締役に就任した。

4  訴外会社は、eが代表取締役を務める日本スリーエス株式会社を中心とする日本スリーエスグループに属している。同グループには、そのほか、セムヤーゼ、フォーエス投資顧問株式会社、株式会社日本エム・アンド・エーセンター、スリーエス総研株式会社が属している。

セムヤーゼは、eが平成元年に設立した有限会社を平成四年五月二二日に組織変更したものであり、有価証券の保有、運用、投資等を目的としている。

5  fは、事業承継、資産運用及び経営計画に関する相談指導や企業の合併、提携、営業権・有価証券の譲渡に関する指導、仲介及び斡旋等を目的とする株式会社財産活用クリニックを設立し、その代表取締役を務め、節税方法として、eの考案したいわゆるA社B社方式を指導していた。しかし、fは、大蔵省による総量規制によって右方式に必要な銀行融資を受けることが困難になったこと及び税務当局が右方式を否認するという噂を聞いたことから、これに代わる節税方法が必要であると考えた。そして、eを中心とし、fも参加する研究会において、訴外会社の株式を購入するキャピタル方式が考案された。そのパンフレットには、次のように記載されている。

①  「キャピタル株(本件株式)の過半数はスリーエスグループが所有している為、資産家の皆様は少数株主になりますので、評価額は低くなります。」

②  「株主の皆様が株式の売却を希望された時に購入希望者がいない場合にも・・・ご希望に応じることができるものと考えております。」

eは、平成一〇年四月二三日、国税局の担当者に対して、右①の意味は、セムヤーゼが常に訴外会社の株式を五〇パーセント以上所有しているので、出資者は必ず少数株主になることから、相続税及び贈与税の課税価格の計算においては、訴外会社の株式は配当還元方式により評価できるので、購入価格に比して、評価額が低くなるという意味である旨、右②の意味は、出資者が本件株式の売却を希望したときには、まず、その株式の購入希望者を探すが、購入希望者がみつからない場合はセムヤーゼを初めとする日本スリーエスグループの関連会社で買い取ることとし、関連会社で買い取ることができない場合には、訴外会社の減資により対応することとしている旨説明した。

訴外会社が出資者に対して増資により本件株式の割当てを行う場合の一株当たりの引受価額又は出資者がセムヤーゼから本件株式を購入する場合の一株当たりの購入価額は、引受日又は購入日の属する月の前月末現在における一株当たりの時価純資産額とされていた。

訴外会社は、月末時における純資産価額や配当還元方式による評価額などを記載した株価計算書を作成し、出資者に報告していた。

6  ところで、aは、当時八三歳と高齢であったが、妻は既に死亡しており、相続税の配偶者税額軽減も適用できず、当時の評価額で約八億円の不動産を所有していたので、相続税額も三億円以上に上ることが予想されていた。

fは、財産活用クリニックにおいて、a又は原告らから相談を受け、キャピタル方式を指導することにし、同社の社員であるgは、平成四年二月二五日、原告b及び原告cにキャピタル方式の説明をした。

原告らは、生命保険会社の提案した、生命保険に借入金を使って加入する方式と、gの説明したキャピタル方式とについて、節税効果等を約三箇月間検討した結果、キャピタル方式を採用することにした。原告bは、キャピタル方式を実行するに当たって、税務当局から否認される危険性はないのかを危倶し、何度もgにその点を確認した。

7  財産活用クリニックの作成した「<a家>キャピタルプラン実行計画書―実行予定案―」(乙二九)には、次の記載がある。

①  aは、借入金四億二〇〇〇万円で株式会社ワイ・ティー興産を設立する。

②  ワイ・ティー興産への出資払込額は四億二〇〇〇万円、資本金は四二〇万円、出資口数は八四口とする。

③  aは右八四口すべてを訴外会社に現物出資する。

④  同時に、aは、銀行から八四〇万円を借り入れ、その現金を訴外会社に出資して、本件株式の時価発行増資八四〇万円を引き受ける。

⑤  訴外会社の普通株式の一株当たりの時価純資産価額が一万七〇〇〇円である場合、aは本件株式を二万五二〇〇株取得する。

fないしgは、右5の①②の記載のあるパンフレットを原告らに交付した。

8  aと原告らは、「<a家>キャピタルプラン実行計画書―実行予定案―」の内容どおりの処理を実行した。

すなわち、まず、平成四年六月二日、ワイ・ティー興産設立のため定款を作成し、同月四日、公証人の認証を受けた。右定款によると、資本の総額は四二〇万円(出資口数八四口)、設立の際の出資一口の引受金額を五〇〇万円、出資一口につき五万円を超える引受金額は資本準備金とする旨定められていた。

aは、同月九日、大和ファイナンスから、弁済期平成九年九月三〇日、年利七・五パーセント(ただし、契約日から一年を超えるときは、平成四年六月一五日より一年目毎に到来する利払日に利率を変更する。)の約定で五億円を借り入れ、利息、保証料、発行手数料、担保調査費用を差し引いた残額四億七七三三万〇四〇六円を受領した。aは、そのうち四億二〇〇〇万円を、同日、ワイ・ティー興産への出資金として払い込んだ。平成四年六月一一日、ワイ・ティー興産が設立され、aが代表取締役に、原告らが取締役に就任した。

aは、平成四年六月二四日及び同年七月二八日に、本件株式を合計二万四〇九三株取得した。そのうち四九二株は、aが平成四年六月二四日にセムヤーゼから八三九万八四四〇円(一株当たり一万七〇七〇円)で購入したもので、残りの二万三六〇一株は、ワイ・ティー興産の出資口数八四口全部を訴外会社に現物出資し、これを受けて訴外会社が増資して発行した新株で、一株当たりの価額は一万六九七七円であった。

9  aは、平成五年三月三〇日、本件株式合計二万四〇九三株を、原告bに三〇〇〇株、原告cに一万株、原告dに一万一〇九三株贈与する旨の本件贈与を行った。

10  原告らは、本件贈与により取得した本件株式を配当還元方式により一株当たり三八円と評価し、贈与税の基礎控除額(六〇万円)に満たないとして、平成五年分の贈与税の申告をしなかった。

11  ワイ・ティー興産は、平成六年八月一日、訴外会社に吸収合併された。

12  原告らは、平成六年一〇月一四日、本件株式のうち右現物出資によりaが取得したのと同数である二万三六〇一株を一株当たり一万八二七七円で(原告bが二六〇〇株を四七五二万〇二〇〇円で、原告cが一万株を一億八二七七万円で、原告dが一万一〇〇一株を二億〇一〇六万五二七七円で)セムヤーゼに売却した。

13  原告らは、平成六年七月から同七年四月にかけて、aに対し、合計五億六二六三万〇〇二五円(原告bが一億八五七五万円、原告cが一億七八八八万〇〇二五円、原告dが一億九八〇〇万円)を貸し付けた。

14  aは、平成七年四月二八日までに、大和ファイナンスからの借入金五億円を一括して返済した。aが大和ファイナンスからの借入金について支払った利息の合計額は九四二七万六〇二七円、保証料の合計額は四三三万七六七〇円に上る。

15  aは、平成八年四月一日に死亡したが、aの相続人である原告らは、fを通じて、遺産総額を四億三一三二万四二八五円、これから控除される債務を六億一二一七万七九九四円(原告らからの右借入金元本全額及び未払利息の合計五億八七〇六万三二六五円を含む。)あるとして、相続税の課税価格及び納付すべき税額を〇円とする相続税の申告書を提出した。

五  以上認定の事実によれば、aが本件株式を取得したのは、配当金の取得に目的があるのではなく、本件株式が、将来において、必ず、時価純資産価額方式による評価額相当で売却できるという保障があることに加え、aが死亡して相続が生じ、あるいはaが原告らに本件株式を生前贈与しても、訴外会社の株主構成における前記の仕組みから、課税価格の計算上、その価額は純資産価額方式により計算した価額より著しく低くなることに主眼があったというべきである。実際にも、原告らは時価純資産価額により計算した価額相当の本件株式の贈与を受けながら、これを現金で贈与を受けた場合には約二億五〇〇〇万円の贈与税額を納付しなければならないにもかかわらず、本件通達一八八、一八八―二を形式的に適用して本件株式を配当還元方式で評価した場合の贈与税額は〇円となり、本件通達の形式的な適用により、贈与により承継された実質的な経済的利益を基礎として計算される贈与税額に比して著しい不均衡が生じる結果となる。右のように、aが本件株式を取得、保有するに至った目的、その後における本件株式の贈与に伴い生ずる経済的利益の承継とこれに対する課税関係は、本件通達一八八、一八八―二が同族株主以外の株主の保有する株式の評価について配当還元方式を採用する上で想定した利益状況とは全く異なるというべきである。むしろ、本件株式の取引に関しては、実質的に、時価純資産価額に基づく価格により取引されることが予定されていたというべきであり、かような場合に、本件通達に定める配当還元方式を適用することは、課税上、実質的な公平を著しく損なうものである。したがって、本件通達一八八、一八八―二の規定を形式的に適用するのが相当でない特別の事情が存するというべきである。

そして、右認定事実及び前記の相続税法及び本件通達の趣旨によれば、本件株式の評価は、当事者間の取引における価格の算定において採用された時価純資産額方式による評価をもって、相続税法二二条にいう時価とすることが相当である。

これによれば、本件贈与に係る原告らの課税価格及び贈与税額は別表2のとおりとなり、本件各処分はその範囲内である。

六  原告らは、累進課税制度が憲法二九条及び一四条に違反するから、累進課税税率による税額を前提とする本件各処分も違憲、違法であると主張する。

しかし、相続税は、富の再分配機能を通じて経済的平等を実現することを目的とするもので、そのために如何なる課税制度を採用するかは、原則として立法府の裁量に委ねられているものというべきであり、累進課税制度についても、それが極めて極端なもので、憲法の規定に反していることが一義的に明白であるなど特段の事情がある場合以外は、違憲の問題は生じないというべきである。原告らの右主張は、採用できない。

七  また、原告らは、本件株式の価格が被告主張のとおりであるとすると、本件贈与の意思表示は、動機に錯誤があるから無効である旨主張する。

しかし、原告らが主張する錯誤は、原告らも自認するとおり、動機の錯誤にすぎないもので、本件贈与の原告らの意思表示自体には何らの瑕疵もなく、その動機が表示されていたとしても、前記三の認定事実によれば、それが、意思表示の内容となっているとまでは認められないこと(最三小判昭和三七年一二月二五日・裁判集民事六三号九五三頁参照)、本件贈与の履行があった後も、本件株式を返還するなどの措置を採っておらず(最二小判平成二年五月一一日・訟務月報三七巻六号一〇八〇頁参照)、むしろ、セムヤーゼに売却して収益を挙げたこと、aが死亡したことによる原告らの相続税の申告も、本件贈与が有効であることを前提としてされていること等に照らすと、原告らの右主張は、採用できない。

八  以上の認定、判断によれば、原告らの本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく失当であるから、いずれも棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民訴法六一条、六五条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 八木良一 裁判官 青木亮 裁判官 谷口哲也)

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